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更新日:2016年11月30日
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鹿児島市景観まちづくり賞は、市民や事業者の皆様とともに、鹿児島の良好な景観を創り、守り、育てていき、地域性豊かで風格があり、市民誰もが愛着と誇りを持てる美しい鹿児島のまちづくりを進めていきたいという願いを込めて、実施しているものです。
この賞は良好な景観形成に寄与する民間建築物を対象とした「建築部門」と、良好な景観形成に市民の方などが寄与したまちなみ・田園・海岸・緑地などの景観や、景観まちづくりに関する住民活動を対象とした「景観部門」で構成されます。
第3回となる今回は、平成26年6月18日から8月1日まで募集を行い、応募のありました建築部門24件、景観部門4件の中から、厳正な審査を経て、下記の建築部門3件、景観部門3件、特別賞1件を決定しました。
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名称 |
内容 |
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建築部門 |
障害者支援施設 |
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専用住宅 |
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寄宿舎 |
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景観部門 |
地域の環境緑化への貢献を目指した環境緑化教育 |
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石橋記念公園及び周辺地域の景観形成活動 |
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美しい常盤の森を借景とした庭造り |
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特別賞 |
建設過程の熱意を持った取り組みと合意形成 魅力的な都市景観の形成と街のイメージアップへの寄与 |
参考:第3回鹿児島市景観まちづくり賞パンフレット(PDF:14,143KB)
知的障害者支援施設「しょうぶ学園」の中に建設された4棟の建築、すなわちレストラン(増改築、2008年)、地域コミュニティーセンター(リニューアル、2010年)、蕎麦屋(リニューアル、2011年)、作業棟(新築、2011年)が連続した建築群である。既存の建築では、過去の面影を残しながらもそれまでとは違ったものに生まれ変わらせる増改築やリニューアルを行い、さらにそれらと調和する新たな建築を加えることによって、周辺の自然環境とも融合した“集落”や“街並み”を思わせる魅力的な景観を創出したものである。
「しょうぶ学園」はものづくりを積極的に進めていることで国内でも有名な施設で、今回の建築群にも入所者や施設スタッフの手作りによるものが積極的に利用されている。外壁に貼った陶板、外装や内装の壁塗り、家具、食器などがそれであり、4棟をつなぐ共通した雰囲気づくりに役立っている。外壁や屋根の形状や素材についても、緩やかにうねった土俗的な土壁や大胆な外壁のペインティングなどが大きく育ちつつある木々に囲まれて、時間の経過とともにその環境に適した味わいを感じさせてくれる。さらに、敷地内にはもともと障害者の芸術性を引き出す各種工房などがあったが、地域とつながる食空間やギャラリーなどの機能を合わせ持つ4棟の建物が加わったことで、日々地域コミュニティの方々や一般の来訪者と入所者との触れ合いがごく普通に行われるより開かれた障害者施設となっている。
「しょうぶ学園」における一連の建築は、個々の建築の単なる寄せ集めではなく、緑豊かな環境、見事に調和する新旧の建築群、そこに集う多様な人々の生き生きとした活動などの全体が一つの景観を形成するように設計されたものであり、景観まちづくり賞の建築部門にふさわしい作品と言える。
nuiproject棟
パスタ&カフェ Otafuku
オムニハウス
そば屋凡太
城山の麓の崖地に近接する敷地に建つ2階建ての専用住宅である。土砂災害への備えと環境への配慮から、鉄筋コンクリート造とし外断熱工法を採用している。隣接する駐車場など、周辺は将来予測が難しいため、隣地側には開口部はとらず、道路側に前庭と裏庭を設け、そこに向けて大きな開口部をとり、閉じる場所と開く場所を明確に区別している。2つの庭の間に生活の中心となるダイニングを設け、風が通り抜ける道を巧みに確保している。ダイニング上部には吹抜でつながるワークプレイスを設け、個室も木製建具を開くと吹抜を介して1階に気配が伝わり、家族がつながり合うように空間が組織されている。内部はコンクリートの打放しと対比させて無垢材を使用しているが、それは鹿児島の風土の表現であるとともに、施主が保有していた木材を活用した結果でもある。
前庭と裏庭、それらを結ぶダイニングという空間構成は、後方の城山の緑と前方の屋敷地の緑を視覚的に連続させた景観への配慮から導き出されたものである。鹿児島の強い日射しと桜島の降灰には深い開口部とオーバーハングさせた上階により対応し、外観に陰影を作っている。屋根には排水口や樋を設けず、緩勾配のスラブで雨水を処理し、外壁の2カ所に開放のたて樋を設けている。鹿児島の環境とつきあいながら住まうかたちを素直に表現した優れたデザインと言える。
以上のように、設計者は、住み手の個性、家族の人間関係、風の流れ、周辺環境の緑、鹿児島の風土などの特定の状況に柔軟に応答するかたちで設計を進めており、住み心地が良く、質の高い生活を可能にする熟成した住宅作品が実現されている。
全国有数の進学校として名高いラ・サール学園の学生寮である。生徒の多くは中学1年から高校2年までの5年間をこの場所で過ごす。遠く桜島を望む学園の敷地の一角に、敷地内に分散していた寮群を建て替えたものである。
設計のコンセプトは、“寮と校舎との距離”と“中学生と高校生の距離”という2つの距離の取り方であり、中庭を囲む中高一体の学生寮とすることでほどよい距離感を実現している。生徒の日常は寮と校舎の往復であるが、帰寮時の気分転換の場所となるよう中庭を配し、南国の日差しに映えるカラフルな色彩を用いて校舎と違う雰囲気を醸し出している。また、2階から4階の寮室については、成長段階が大きく異なる中学生と高校生が行き来できないように管理しているが、同時に共に過ごす場所でもあることから中庭・階段室などを介して相互に意識できるよう配慮している。
外観に取り付けられたビビッドな色彩のアルミパネルは、エアコン室外機を隠すために設置されたものである。赤や橙の色彩については賛否両論があったが、活気を生む効果をもたらしていることも事実である。旧寮の植栽を移植し、石庭や灯籠を再利用した中庭は、学園の記憶を継承している。階段室上部のトップライトや四隅の中庭に開けた空間は、自然光を取り込む上で大きな効果を上げており、パステルカラーの寮室扉や入口付近のステンドグラスなども、空間に潤いを与えている。
以上のように、設計者は外観だけでなく、中庭や内部空間にも細やかな配慮を施し、質の高い建築を創り出している。本学園寮はキャンパス内にあるため、眺める人の数は限られるが、利用者である生徒や教員にとっては忘れることができない景観となるであろう。
西紫原小学校では、環境緑化の整備を教育の出発点ととらえ、子どもたちに緑化環境づくりと直接関わりをもたせながら豊かな情操の育成や、自然への働きかけによる科学性及び、友だちとの植物の世話を通しての自主性・社会性の育成・伸長に取り組んでいる。最近では、環境教育の重要性の高まりを踏まえ、緑化活動を通して身近な環境問題を実践的・体験的に学ぶ総合的な学習を推進するとともに、地域や幼稚園などへの花苗の配付活動なども進めている。
こうした活動の成果として、管理棟校舎前面には、季節感を味わえる花の品種や配置に配慮し、一人一鉢の花と学級園の立体的な組合せを工夫した“フラワーロード”と呼ばれるオープンガーデンが形成されている。学校園としての仕上がりの水準は高く、年間1万本の花が咲く地域の「花のスポット」として、来校者、地域住民、子どもたちのふれ合い・交流の場にもなっている。また、幼稚園、児童クラブへの花苗の配付、街頭での花苗の配付などを通して、地域の緑化活動を推進しており、さらに、校区内の緑地帯、公園の除草・清掃活動なども行って、地域の住み良い環境・景観づくりに努めている。
校庭の環境緑化としては、環境学習も含めて大きな成果を上げており、鹿児島県学校環境緑化コンクール知事賞、全国学校関係緑化コンクール文部科学大臣賞等が授与されている。これに景観という視点を加えると、校内の美しい花や緑がまちから見えるようにする、野原・森・緑道などを整備し、全身で自然と触れあえるようにするといった環境緑化の次の段階を展望することもできよう。環境緑化を通して未来の子どもたちの成長を目指す取組を高く評価するとともに、さらなる発展を期待したい。
石橋記念公園は、江戸時代後期に甲突川にかけられた5つの石橋のうち、平成5年8月の大水害で流失を免れた西田橋(県指定文化財)と、高麗橋、玉江橋の3つを移設保存するとともに、石橋の歴史や架橋技術を学べる記念館を併設し、開園された都市公園である。この公園に「子どもガイド」を設置し、観光客等への園内ガイドの取組が始まったのは、平成20年度からである
子どもたちが石橋の歴史や架橋技術を学び、体験する中で、鹿児島の歴史や故郷への興味を持ち、また共に考え、調べ、学ぶガイド活動には、現在では6~10名の子どもが携わっており、来園者の好評を得てきている。子どもガイドの活動は、石橋のガイドから公園内及び周辺地域の美化清掃活動へと発展し、さらに「花かごしま2011」を契機として組織された「石橋記念公園花と緑の会」の構成メンバーとして園内園地整備に参加するとともに、鹿児島商業高校、鹿児島女子高校生約20名とも連携して公園の美化、景観形成活動を行っている。これらの活動に加え、「NPOかごしま探検の会」「上町タウンマネジメント」「上町維新まちづくりプロジェクト」の協力を得て、鹿児島の観光や景観を考える“鹿児島ジュニアサミット”を実施するなど、様々な景観まちづくり活動に取り組んでいる。
子どもガイドで興味深いのは、人工物が歴史的文化財としての価値を持ち、自然物とともに景観になることを学んでいる点、及び子どもたちが自主的に参加し、高校生や大人と世代を超えて交流し活動している点である。参加する子どもの数がもう少し増え、環境や景観の深い意味を理解する活動へと拡充していくことができれば、この活動はいっそう有意義なものとなるに違いない。
美術館として使用されている児玉邸は、薩摩街道として参勤交代などで有名な常盤町の水上坂の中ほどに位置している。江戸時代、島津藩の家老を勤めた宮ケ原家の屋敷を児玉利助氏が購入し、息子である利彦氏が優れた大工と共に昭和32年に新築した近代和風モダン建築であり、緑豊かな自然の中に静かに溶け込んでいる。この建物の主屋、表門、及び明治後期に作られた井戸屋は、平成26年春に国の登録有形文化財に選定されたところである。
ひらかわ美術館は、この児玉邸を借りて、平成21年春に開館し平成31年春までの予定で、作品の展示、使用を行っている美術館であり、花鳥風月にこだわる京都の日本画家、大野藤三郎氏の作品を展示している。この美術館は、建物所有者である児玉氏の理解と支援、及び美術館運営に携わる平川氏個人の熱意と多大なる尽力によって成立している。平成21年に庭園の大規模改修を行い、景観を維持するため、清掃、植栽といった作業を日々続けるとともに、お茶会などのイベントを実施し、地域の方々とも交流していることは、高く評価すべきである
美しい庭園、有形文化財としての建物、花鳥風月を描いた絵画作品、周辺緑地などが織りなすひらかわ美術館は、個人の献身的な営みで奇跡的に成立したものであるが、景観まちづくり賞に相応しい価値を備えた景観を形成している。しかし、美術館の開館が完全予約制で日曜日のみとなっているのは、個人に依存した運営体制によることも事実で、その限界を超えて景観の公共性を担保するためには、組織や財政の基盤を整備する必要があると考える。ひらかわ美術館は、持続可能な景観まちづくり活動における行政や市民の役割についても一石を投じていると言える。
鹿児島市のショッピング街・天文館地区は、近年の郊外型大型商業施設の進出や中央駅地区の再開発に押される形でその価値が揺らぎつつあり、空きテナント対策や買い物客の誘導策を進める必要に迫られている。しかしその一方で、照国通りには一部アーケード未設置のエリアがあり、天文館地区のアーケード設置エリアと大型地下駐車場との間の歩行者動線が特に降雨時や降灰時には分断された状況が続いてきたのである。照国表参道アーケードは、こうした都市的状況を背景として、照国表参道商店街振興組合が実施主体となり、国補助金(商店街まちづくり事業)、市助成金(共同施設設置事業)、及び自己資金を充当して、長年の夢を実現したものである。
出来上がったアーケードのデザインには、車道側に柱を設置しない、街路樹の成長を阻害しない屋根幅とする、白を基調としたシンプルな構成とする、といった工夫が凝らされ、その結果、開放的で統一感のある通りの景観が形成されている。鳥居を連想させる反りのある特徴的な形状は照国神社への見通しの良さを確保するのに役立ち、既存店舗の間口に合わせて設置された柱は店舗ファサードの視認性を高めるのに貢献しており、言わばテーラーメイドのアーケードが形作られている。
ただ、道路に埋設されたインフラとの関係から樋の配管などに若干無理が生じていたり、白い塗装が日光の照り返しで眩しく感じられたりすることもあり、細部の納まりや色彩の選択などにもう少し工夫があってもよかったのではないかと思われる。もう一つ惜しまれるのは、柱間の寸法調整以外に店舗の違いを表現する仕組みがあまり認められない点である。各店舗の個性をうまく表現する仕組みがデザインされていると、通りの景観はいっそう魅力的になったのではないかと考える。
とはいえ、地元の照国表参道商店街振興組合を中心とする関係主体の献身的な努力により、鹿児島市中心市街地活性化基本計画に位置づけられた「照国表参道商店街ショッピングモール化事業」がこのような特徴的なアーケードデザインによって実現したことは、高く評価できる。これにより、中央公園を挟んで近接する歴史・文化ゾーンと天文館地区のアーケード群からなるショッピングモールがつながり、来街者の利便性や快適性、回遊性を高めることができたからである。
なお、照国表参道アーケードは建築部門に応募されたものであるが、審査委員会では現地審査を踏まえて慎重に審議した結果、建築作品としてのアーケードを評価するだけでなく、アーケードによって創出された都市景観を審査対象とし、建築部門と景観部門の審査区分を超える「特別賞」を授与することにした。アーケードは建築作品を超えて、中心市街地活性化の景観を創出する装置であり、そのデザインに関与した多くの関係主体の努力に敬意を表したい。
募集期間
平成26年6月18日~8月1日
募集対象
建築部門
市内にあり、美しい街並みと豊かな都市環境に寄与し、街に潤いと魅力を与えている民間建築物で、平成16年4月1日から平成26年8月1日までに建築基準法による検査済証の交付を受けたもの
景観部門
応募件数
建築部門:24件
景観部門:4件
審査会
期間
平成26年10月24日~26日
委員長 |
門内輝行 |
京都大学大学院工学研究科建築学専攻教授 |
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副委員長 |
井上佳朗 |
鹿児島大学法文学部名誉教授 |
委員 |
木方十根 |
鹿児島大学大学院理工学研究科教授 |
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橋本文雄 |
鹿児島大学農学部教授 |
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古川惠子 |
鹿児島女子短期大学教授 |
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江良喜代子 |
era色彩計画代表 |
|
東川美和 |
NPO法人まちづくり地域フォーラム・かごしま探検の会事務局長 |
部門 |
表彰者区分 |
贈呈品 |
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建築 |
所有者 |
賞状及び銘板 |
設計者 |
賞状 |
|
工事施工者 |
賞状 |
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景観 |
活動団体等 |
賞状及び賞金10万円 |
特別賞 |
建築主 |
賞状 |
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